顧問先へのクラウド会計導入は2018年時点では時期尚早
2018年6月4日 8:14 PM | カテゴリー:IT仕事術 | コメント(0)
クラウド会計がこの世に出てきて6年が経とうとしています。弊事務所の顧問先も何社かは導入済みです(すべてMFクラウド会計)。自分自身の個人事業主としての会計業務もMFクラウド確定申告を使っています。 僕は将来的にはクラウド会計導入には大賛成なのですが、平成30年3月の確定申告が終わった時点で思うのは、現状では導入しても全体的にみて効率化には繋がらず、顧問先への(自分自身の記帳も含めて。)クラウド会計の導入はやめておいた方がいいと思っています。
このエントリーでは、クラウド会計のメリットとデメリット、そして僕が想像するクラウド会計の夢の世界を想像して書いてみたいと思います。
クラウド会計を導入しても業務が効率化するわけではない
クラウド会計は、銀行やクレジット等の明細のインポート、そして科目自動選択に重きを置いているため、それ以外の機能について言えばまだまだ既存のインストール型会計ソフトに軍配が上がっていると思います。サービススタートから5年が経過しようとしているのに、まだ劣勢というのは残念としか言いようがありません。
クラウド会計の一番のデメリットは帳簿間の移動(画面変遷)が遅いことです。伝票の登録、削除、入力など一つの画面内での作業について言えば、問題ないほど操作感は軽快です。しかし、ひとたび帳簿を移動しようものなら、数秒待つのが常となっています。ちなみに、弊事務所のパソコン環境は、メモリ16GB、SDDであり、インターネット環境はNTTの「フレッツ光ネクスト 隼」の有線LANです。以前ツイッターにも投稿しましたが、
Ajaxを使わなかったら、クラウド会計の未来は非常に厳しいものになると思います。
GmailやGoogleスプレッドシートのような、まるでローカルPCで作業してるかのようなサクサク感が欲しいだけのです。
— 税理士 松田英隆 (@taxmanagement) 2018年3月17日
Gmailなどのクラウドでも当たり前に導入されているAjaxがクラウド会計にはまだ実装されていないのではと思います。それゆえ、仕訳日記帳から残高試算表への移動や、振替伝票から残高試算表等への帳簿間の移動に極端に時間がかかってしまっている状況です。これでは、いくら「自動で帳簿ができて」も、全体として会計業務が非効率になってしまい、何のためにクラウド会計を導入したのかわからなくなっています。
同業者と会って話てみても、税理士メーリングリスト上でも、以前のような期待感のある声はすっかり声を潜めてしまい、「遅くて使えない。やっぱり弥生会計に戻そうか。」など、どちらかというと失望感のある声が多くなっているような気がします。
また、ショートカットが頼りないことも非常に業務効率化の足を引っ張っています。弥生会計などのインストール型会計ソフトでは、ほとんどマウスを使うことなく、入力や修正等の操作をショートカット機能だけでほとんどの入力業務を終わらせることができています。しかし、クラウド会計はブラウザ上で動くため、ショートカット機能が限定的なのです。もちろん、MFクラウド会計でもショートカットがあるにはあるのですが、ブラウザ準拠のショートカットであるため、セルの移動やセルのコピペなど、あまり業務に効率化に貢献するとは言い難いのです。現時点で、クラウド会計の導入が業務効率化に貢献するのは、①現金取引が少なくて、②銀行入出金とクレジットカード利用が極端に多くて、③複数の人がどこでも入力、確認する必要があるというこれら3つの要件に当てはまるごく少数の事業者のみと考えています。
日々、税理士業務を行っている者(私)が不思議に感じていることは、ネット上を散見すると、まだまだ「日々の経理もクラウド会計で効率化!」「クラウド会計で経理作業を大幅に効率化!」などと謳っているサイトがあることです。 こういうサイトはポジショントークをしているだけで「また、そんな大げさなことを言って!本当なの?」くらいの疑いの目で見るくらいがちょうどいいのではと思っています。
クラウド会計の優位性が崩れつつある
ここへきてインストール型会計ソフトが攻勢に転じています。インストール型会計ソフトでも、クラウド会計の優位性である「銀行明細とクレジット明細のインポート、そして自動伝票作成」が可能になりつつあり、クラウド会計の優位性が崩れつつあると感じています。また、価格もインストール型会計ソフトとクラウド会計にほとんどその差はありません。例えば、弥生会計では標準である「編集制限」が、MFクラウド会計ではオプション機能となり、これを使うには上位プランの契約が必要になります。(編集制限機能は、税理士事務所が顧問先と会計データを共有するには必須です。)
そうすると、むしろ年間使用料ではインストール型会計ソフトの方が安く使えることになります。また。消費税変更に影響がない事業者や税理士と契約している場合などは、かならずしも毎年のバージョンアップの必要はないと言えます。しかし、クラウド会計は買い取りではなく、「利用料」のため、使い続けている限り未来永劫支払い続ける必要があります。価格メリットもそれほどなく、業務効率化になるわけではないサービスに対して、そろそろユーザーも使い続けることに対して検討する必要があるのではと気づき始めているのではと思います。
*平成30年4月27日現在:MFクラウド会計 年間使用料は35,400円(税込)、弥生会計スタンダードは34,800(税込)。
昨年、東証マザーズに上場したマネーフォワード社の直近高値は6月1日の5,970円。この数ヶ月は4,500円から5,000円のレンジで動いていました。高くても5,000円くらいが妥当かなと思います。6,000円を超えるとさすがに期待値折り込み済みの価格ではないでしょうか。
クラウド会計で業務効率化の世界を夢見る
繰り返しになりますが、僕はクラウド会計には大賛成です。クラウド会計は、会計業務を楽にしよう、効率化しようという趣旨で開発されてきたはずです。僕は、クラウド会計が会計業務を楽にしてくれることを夢見ます。クラウド会計で税理士事務所の職員が楽になり、ブラックと言われ離職率の高い税理士業界がホワイトになり、そして導入しているお客様の会計業務が効率的になるという、この業界で働いている皆と顧問先が幸せになる時代を夢見ます。確定申告時期の繁忙期でも、もう残業しなくていいという世界です。さらに、クラウド会計は他のアプリやツールと組み合わせることによって 無限大の可能性を秘めているとも思っています(*1)。
*1 弥生会計がクラウド型請求書作成サービスの「misoca」を買収したのは、安い買い物だったと言えると思います。MFクラウド会計やfreeeにとっては、既存顧客を取り込めるチャンスを逃したと言えるかもしれません。
例えば、クラウド会計がAmazon、楽天、yahooと連動してすべての販売データ(商品名、単価、購入者))を自動で取り込めることができて在庫情報まで把握できれば、ネットショップを事業者にとっては大きなメリットを享受することができます。また、仮想通貨業者と提携すれば、非常に面倒な損益計算から解放されるかもしれません。また、クラウド給与ソフトが国税庁のe-Taxソフトと連動して、ワンクリックで「給与データ→年末調整→法定調書→給与支払報告書を作成して電子申告」まで一気通貫で申請できる日が来るかもしれません。クラウド会計の最終形態としては、「銀行明細自動取り込みと伝票自動作成」だけではなく、他のアプリやツールと連携して無限大の業務効率化を実現することが最適解だと思います。
ニュージーランドではすでに夢の世界が実現している
そんな夢物語のような世界が、クラウド会計「ゼロ」を使うことによって、ニュージーランドではすでに実現しているようです。
例えば、消費税のオンライン申告や給与所得の源泉徴収申告は、ゼロを通じて直接行うことができる。
・・・第三に500を超えるアプリとの連携が挙げられる。例えば、旅行会社の予約管理システムと連動して、請求書の発行、入金の管理、キャンセル時の返金等を自動的にゼロ上に反映することができる。・・・在庫管理は他社アプリで管理したものをゼロに連動させる方式をとっている。つまり、どんな業界に
関しても会計、税務の中核部分はゼロで管理できるようになっている。
週刊エコノミスト 平成29年11月28日号より引用
まとめ
僕は、クラウド会計ソフトが単体で動くだけでなく、いろいろなアプリやツール、ソフトと連携することによって、ほぼ自動で帳簿や確定申告書ができ上がるという未来を夢見ています。 そして、それはそう遠くない将来実現するはずなのです。
しかし実現したとしても、今のようにクラウド会計がもっさりとした操作感のままでは、税理士事務所が業務として使う可能性は低いと言わざるを得ません。その証拠に、私の周りではちらほら「クラウド会計を使っても業務効率化に貢献していない」という声が聞こえ始めています。 「インストール型会計ソフトに戻った」という声も聞こえてきています。クラウド会計にとっては正念場であることをもっとクラウド会計ソフト会社にも分かって欲しいなと思っています。