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マイナンバー導入初年度の雑感「個人番号の100%収集は難しいかもしれない」


 マイナンバー制度の施行は2016年1月1日だったのですが、(社会保険業務などに関係ない)税理士業務の実務としては事実上2017年1月末提出期限の業務、つまり、2016年分の給与支払報告書、法定調書合計表などの作成及び提出が導入初年度となります。それらの書類に個人番号を記載して提出することになるので、その前段階で従業員、報酬支払先、家主などからマイナンバーを収集する必要があります。その収集作業はそれなりに労力、コストがかかるので(*1)、2015年末くらいから収集作業を開始している税理士事務所が多かったと思います。しかしそれでも、必ずしも100%個人番号を収集できているわけでなないと思います。

*1・・・マイナンバーを普通郵便で送ったり、メールでやり取りするのはセキュリティ上好ましくないので、専用のシステム上で行うことが求められます。弊事務所が使用しているシステム会社、株式会社NTTデータも個人番号管理収集システムを開発、提供してくれました。ただし、価格は決して安いとは言いがたかったです。そして、そのコストを顧問先に転嫁できないという問題もありました。


 上場企業や一般的な企業だと、その従業員の個人番号の収集率はほぼ100%だと思います。もし、拒否をすれば、それだけで社内で浮いた存在になったり、人事査定に響いてしまうかもしれないからです。
 しかし、同族会社や数人規模の会社では、個人番号の提供を拒否する人が発生する可能性があります。そして、世の中の多くの税理士事務所の顧問先は、それら中小零細企業であり、顧問先のすべての従業員の個人番号を回収できたという事務所は少ないのではないでしょうか。おそらく収集率は80%〜90%くらいではないかと推測します。

 また、法人が個人から駐車場などを借りていれば、その家主から個人番号を提供してもらう必要があります。また、弁護士さんなどへ支払った場合も同様です。しかし、従業員以外からの個人番号の収集率はもっと下がるのではないかと思います。やはり、個人番号が独り歩きして、自分の所得などと個人番号を紐付けされて国に管理されることを理性では分かっていても、感情的に拒否してしまうのかもしれません。

 意図的な個人番号の漏洩は刑事罰が課されますが、個人番号を提供しなかったからと言って、なんら罰則規定が適用されることはありません。つまり個人番号の提供は「国民の努力義務」なのです。国(総務省)が諸手を挙げて導入したマイナンバー制度。何百億、何千億とシステム等の投資をしたにもかかわらず、個人番号の提供が「国民の努力義務」というのでは、少し、国のやる気を疑問視せざるを得ません。単なる、努力義務だと「提供する人が損をして、提供しない人が得をする」(*2)という状況が生まれるかもしれません。個人番号を提供しなくても罰則規定がないなら、人事査定にも、社内の人間関係にもまったく影響のない家主などは、個人番号を提供しなくなるのではないかと思ってしまいます。

*2・・・技術上、個人番号によって、所得を始めとする様々な個人情報を国が把握することができます。将来的には、各金融機関に散らばった預金残高や病院への通院記録なども。

 では、個人番号を未記入のまま書類を税務署に提出したら、受け付けてもらえないのでしょうか。実は、そのようなことはなく受け付けてもらえます。多少、指導は入るかもしれませんが、個人番号を記入しなかったからと言って、役所がその書類を受け取り拒否することはありません。もし、税務署や区役所、市役所等の窓口が、個人番号の記載がないからと言ってその書類の受け取りを拒否すると、行政事務に多大な混乱が生じてしまうことは容易に想像できます。
 非常に重要な制度ですが、すべての日本国民に個人番号を与えて管理することが現実的でないような、このままだと住民基本台帳カード(すでにこのカードの存在すら忘れている人も多いかもしれません。*3)の二の舞いになるのではないかというのがマイナンバー導入初年度の業務を終えた現在の雑感です。

*3・・・住民基本台帳カードは、平成28年12月末をもって発行が廃止されました。利用もその有効期限をもって廃止。今後は、個人番号カードがその役割を担うことになります。


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