[書評] 裸でも生きる




 アジア最貧国、バングラデシュでジュートという素材でバッグを製造販売する会社、マザーハウスの代表取締役、山口絵理子さんの本です。

 まず、山口さんの幼少時代から話は始まります。いじめられっ子であったこと、登校拒否になったこと、そしてそれを克服したこと、
中学時代は不良少女になったこと、そして柔道に明け暮れる日々を送っていたことが書いてありました。その中でも、高校進学にあたって
柔道強豪からの推薦を蹴って、あえて柔道弱小高を選んだ理由がまさに山口さんならではという気がしました。

「地元埼玉でトップ校の女子柔道部監督が「うちに来ないか」と言ってくれた。しかし、私は悩んだ末、自分の力で優勝したい、最高の設備と最高の練習環境、そして最高の指導方法で優勝できても、それは私の実力ではない。私は私の力を信じて勝ち取りたい。」

 その後、一芸入試で慶応大学に進学した山口さんは発展途上国と先進国の格差についての問題である開発学を勉強し、在学中に開発コンサルタントの会社でリサーチアシスタントの
仕事をすることになりました。その後ワシントンで米州開発銀行の短期雇用の職を得て渡米することになりました。ここでの経験がその後の山口さんの人生を左右することになるのです。

「トップの人が(途上国の)現場を知らずに、理論だけで政策を作っていては、結局NGOの人たちがあげてくる(途上国の)現場の声が全く反映されないじゃないですか。・・・私は、ものすごい違和感と現場との乖離を感じた。私の心にはひとつの決心が固まりつつあった。それは「途上国に行く。」ということ。自分の目でいったいどんなことが現場で起きているのか。、援助はほんとうに役に立っているのか。貧しいという現実をこの目で見なければ何も始まらない。」


 思うに、山口さんは非常に自分に正直な人なのだと思いました。自分の心に引っかることや違和感をそのままにせず、しっかりと対峙し、世間の評価や他人の視線など気にせず、自分を信じて突き進むその勇気と強さには感嘆させられました。日本は非常に治安がよく、経済も発展しており、社会インフラも整備されており、住みやすさで言えば世界トップクラスです。山口さんはそんな日本をあえて飛び出し、アジア最貧国であるバングラデシュという国で大きな挑戦をすることになります。バングラデシュという国に、希望の光を灯したいと。

 そして、バングラデシュでジュートという素材を使ってバッグを作り日本へ輸出するという構想を実現するため、バングラデシュで奔走する過程で幾多にも渡る裏切りにあった部分は読んでいて、この人の精神力は半端ではないことが分かりました。
 

「屋上にのぼって、いつも空を見上げては思いっきり泣いて、自分の気持を整理して「自分を信じてやるしかない」と言い聞かせた。・・・いいように現地の人たちに騙されている自分がおかしくて、気がつくと涙を流しながら笑っていた。人間って極度の悲しみに直面すると、笑っちゃうんだ。ということをこの時知った。」

 本を読んで感じることは、夢を実現するっていうことは、決してクールで格好いいことではなくて、むしろ無様であるっていうことだと思います。そして、這いつくばって生きている、その無様さが格好いいのではないでしょうか。山口さんの生き様が、本を読んでいてそう強く感じました。そして、本の最後のエピローグで山口さんは非常に良い言葉を書かれています。

「食べ物が十分でない、綺麗な服もない、家族もない、約束されて将来もない、そんな人達が毎日必死に生きていた。ただただ生きるために、生きていた。そんな姿を毎日見ていたら、バングラデシュの人が自分に問いかけているような気がした。「君はなんでそんな幸せな環境にいるのに、やりたいことをやらないんだ?」って。」

 日本という恵まれた国で、世間体良く無難に生きていくのか、それとも他人の評価など気にせず自分のやりたいことに向かってリスクを取って生きていくのか。それぞれ考え方はあると思います。どっちがいいという問題ではなく、自分の人生に対して自分が納得しているかどうかではないでしょうか。山口さんは最後にこう言って締めくくっています。

 「他人にどう言われようが、他人にどう見られ評価されようが、たとえ裸になっても自分が信じた道を歩く。」

 もうすぐ税理士試験です。私が税理士試験を受けていたのはもう10年以上前のことです。税理士試験を目指している時は、周りが遊んでいる時に受かるかどうかもわからない、年に1回しかない試験に対して、毎日机に向かってひたすら努力をしなければならないのです。大きなリスクを背負って大きな夢に向かって頑張っている人たちです。それでも、合格出来ないこともあります。もう心が折れそうになる時があります。そんな時、この本を読めば、力を貰い一歩前へ進んでいけるのではないでしょうか。また、起業している方も、さまざまな壁にぶち当たることが多いかと思います。そのような時にも、この本を読めば、また頑張ろうと思えるかもしれません。

 つまらない映画よりよっぽどハラハラ・ドキドキさせられます。是非、この夏休みに読んでいただきたい一冊です。